

壁画のペテロ頭部の状態も残されている描画層が断片的で周辺に散らばっており、連続した部分が少ないこともあって顔の輪郭を探し出すことは不可能な状態と言えます。
こういった状況の中で壁画ではペテロの頭部の輪郭を復元していますが、明らかにいびつな頭部の形状はレオナルドが描いたものと認めることはできないものとなっています。実際、レオナルドの時代に描かれた複製画のペテロの画像を壁画に重ねてみるとかなり顔の輪郭がずれていることがわかります。特に顔の角度が全く違っており、この部分は画像を重ねなくともすぐに違いがわかる部分となっています。おそらく、ペテロの修復を担当した修復士はそういった複製画の情報を考慮せずにこのペテロの頭部を復元しているように感じます。
画面中央のイエス・キリストまでをほぼ一人で修復を担当したピニン・ブランビッラ氏による修復は常に複製画の情報を意識したもので、欠損部分の復元には必ず複製画の情報を優先して判断していることは残された修復結果から見て間違いないでしょう。
こういった複製画からの情報の取り扱いの違いがペテロの歪んだ頭部を生み出す結果となったと私は見ています。
ウィンザー城コレクションのペテロの衣服の習作
左の図はレオナルドによるペテロの衣服のデッサン画です。細部の形状や陰影までがかなりしっかり描きこまれています。このまま壁画のペテロに使えそうに思えますが実際にはかなり形状が違っており、多くの部分を修正しなければ壁画のペテロに適合しません。
下の画像がデッサンを壁画に重ねたものです。
特に大きな違いは肩の部分です。デッサン画ではこの部分が上に大きく張り出しています。また衣服の襞の形状もかなり違います。
肘の曲げられた角度や腕の付け根付近の処理もかなりの修正が必要な部分となります。
完成された壁画ではペテロの体の構造はユダの頭の後ろに隠れてしまい気づきにくい部分になりますが、解剖学的には明らかな矛盾のある部分で、肩の位置が頭部から離れすぎています。
このような解剖学的な矛盾はレオナルドの描く人物にはほとんど見られる特徴です。
壁画でのペテロの描写は顔と左手に大きな問題があります。
壁画でのペテロの顔の角度は右下に傾けられていますが実際には左下に傾けられるのが正しい角度です。
そして左手の描写も本来の形状を捉えることに失敗しています。
ペテロ頭部の復元。
ほとんどすべての複製画でペテロの頭部はこの角度で描かれています。
壁画に残されているペテロの顔の輪郭とは明らかな違いがあります。
青い衣服の復元。
レオナルドの描いた絵では鮮やかな青が使われたことがありません。
ほとんどの青が彩度の低い黒みがかった暗い青になっています。
経年劣化で本来の鮮やかさを失っていると考えられますが、復元図を描く際にはそうしたレオナルド作品でしばしば見かける鈍い色彩の青で使徒たちの衣服を再現しています。
手と黄色い衣服の復元。
手の描写は概ね複製画を参考に復元しています。
黄色の衣服は腰のあたりが壁画と複製画では大きく違います。
複製画では下に曲がるように描かれていますが壁画では体の延長上に斜めに描かれています。
また、ペテロの持つナイフは刃がむき出しではなく鞘の中に収められた状態で握られています。


二つの複製画でペテロの描写はほぼ一致しています。
概ねレオナルドの最後の晩餐でもこのような描写であったことは間違い無いでしょう。


壁画でペテロの足は左足の先の部分が微かに確認できますが、右足に至ってはその痕跡がはっきりとはしません。
また衣服の裾も痕跡が微かすぎて判別できるようなものではありません。
http://leonardoresearch.jp/ August 30 2014